こんにちは、Mistirです。
最近、ゼクシィのキャッチコピーが話題になりました。
そのキャッチコピーがこちら。
結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです。
確かにこのキャッチコピーは、上の記事で指摘されているとおり「結婚する人」も「独身でいる人」もどちらも否定せず、寛容で、それでいて力強いキャッチコピーだ。
でも……
それだけじゃ、まだまだ語り足りない。
このキャッチコピーは、まさに……
「歴史に残るべき」キャッチコピーだと思ってる。
ということで、他の「歴史に残る」キャッチコピーと比較しつつ、この素晴らしいキャッチコピーが「何故」素晴らしいのか語ってみようと思う。
良いキャッチコピーって、何なのだろう。
こんな本を昔買った。
タイトル通り、日本のキャッチコピーからベスト500を現役のコピーライターの方々が選出する本だ。
ベスト10までは、ひとつのコピーに対して多方面からの解説が加えられている。
ゼクシィのキャッチコピーについて語る少し前に、この本で「2位」に選ばれたあるキャッチコピーについて語りたい。何故1位じゃないのかは、追々語ります。
「さっさとゼクシィについて語れよ」って思われるかもしれないけど、まぁゆっくりしましょうや。
さて。
その「日本史上第2位」のキャッチコピーが、こちら。
想像力と数百円
これ、何のキャッチコピーかお分かりだろうか。
新潮文庫のキャッチコピーだ。
今や手帳の人として有名になってしまった、なんか不思議なおじさん(?)……
糸井重里氏の創り上げたキャッチコピー。
で、実はさっきの本では「ベスト500」のうち、10位までが順位付けされてるんだけど……
10位までのうち、1位、2位、10位が糸井重里氏によるものだ。
これってトンデモナイことだと思う。
ゲームクリエイターなのか、手帳作る人なのか、埋蔵金掘る人なのか……
今やノージャンル感のある糸井サンだけど、コピーライターとして見たときには、
並みの存在だ。レジェンド。
余談だけど、ココリコ田中がテレビ番組で糸井サンのことを「三流コピーライター」って呼んでるらしい。
なんというか、それも凄いよね。糸井重里相手なら、「三流コピーライター」っていうのが全くイヤミにならない。不思議な話だ。
閑話休題。
コピーライターとしての糸井サンのレベル。
そのレベルの高さっていうのは、この……
「想像力と数百円」
このキャッチコピーの素晴らしさが、全て語っている。
僕、このキャッチコピーのこと、考えるたび、読むたびに泣きそうになるんですよ。
ホントに。
どうやってこんな凄いコピーを創り上げたのか、全く想像がつかない。
実際問題として、このキャッチコピーはプロの方々が大絶賛しているのだけど……
どっから、「数百円」っていうコトバが浮かんだんだろう。
そう、まさにその通り。文庫本は、「数百円」だ。それは凄くリアルな話で、即物的な話で、資本主義的な話で、生々しい話で……お安い。あらゆる意味で、お手軽。
ここで「1200円くらいの文庫本もあるよ」とか言う奴はムーンサイドに送り込んでしまえ。
※ムーンサイド:糸井重里氏のプロデュースした言わずと知れた大傑作ゲーム『MOTHER2』に出てくる街(?)。超怖い。
上手に焼けました? 【マザー2】ムムムーンサイドへよよようこそ
ムーンサイドはさておき……
「数百円」と対比されるコトバ。
「想像力」。
ああ、ってなっちゃう(語彙力の不足)。
そうだ、想像力。
あまりにも「大袈裟」というか……
確かに、「本は想像力の産物」であり、「僕らの想像力に委ねられ」「僕らの想像力を喚起してくれる」、それは事実。
でも、いざ「読書」を「想像力」ってコトバと並べた瞬間、どうも「オーバー」で、「安っぽい」ものになってしまう。
でも。
それが「数百円」っていうリアルと並べられた瞬間、崇高なまでの化学反応が起こる。
そう、そこにあるのは「徹底的な事実」。
文庫本は、数百円だ。
文庫本は、想像力だ。
文庫本は、想像力と数百円だ。
そこに何の偽りがあろうか。
そうだ。僕の手元にある「ちっぽけな」「数百円」と交換されたこの文庫本。それが与えてくれるのは、「無限」に広がる……「想像力」だ。
僕は、想像力を買ったんだ。
僕は、想像力を買うんだ。
それを「想像」させてくれるような、この7文字。
「想像力と数百円」
……とにかく、僕がこのキャッチコピーに一種の畏敬の念を抱いているのは、伝わっただろうか。
さて。少し冷静に語り直すと……
このキャッチコピーは「何」をしているのだろう?何故、素晴らしいのだろう。
そう。このキャッチコピーは、
「文庫本」の「本質」をえぐり出しているのだ。
僕らが忘れていたような「文庫本」の本質が、キャッチコピーによって明らかに浮かび上がる。
文庫本が喚起してくれる「想像力」なんて、普段は忘れてる。
それが「数百円」で手に入る素晴らしさも、普段は忘れてる。
でも、このキャッチコピーはそれを僕らに気付かせてくれる。
ああ、そうだ。文庫本って、読書って、そういうことだったーーって。
さて。この長い前置きから……
やっと、本題に入ります。
(実は本題の方がよっぽど短い)
結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです。
改めて考えると、本当に凄いキャッチコピーだ。
「想像力と数百円」に匹敵する……というより、ある一面を見ると明らかにそれ以上の「価値ある」キャッチコピーじゃないのか、と思えてきた。
結婚って、実は今……
物凄く相対的に、時代の中における価値観が変動してるものだと思う。
例えば、ホリエモンは結婚についてこう語っている。
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生涯一夫一婦制の結婚は、日本人のほぼ全員が土地に縛られていた時代の名残なのだ 。どんなバカでも結婚させて、少ない田畑を長男に継がせ、稲作を後々まで続けていく伝統が、国家を維持する知恵のひとつだった。だからそう簡単に離婚できないよう、見えない力が 「離婚は恥ずかしいこと」と刷り込んで、人々を家庭に縛っていた。
だけど、今は違う。
安い金で海外から美味しい食糧を輸入していて、人口の3パ ーセント程度の農家で 、充分に国の胃袋を満たせている。
日本人が土地に縛られていた時代はとっくに終わった。離婚率の増加は、そういった当たり前の現実を反映したモラルハザードの一部なのだ 。
「まぁ、突き詰めたらそうだわな」
って感じだ。
そう、結婚自体の価値観が揺らいでいる。
というより……少なくとも、30年前の価値観のまま「結婚」について語ることはできなくなっているのだ。
「想像力と数百円」はーー
時代が変わっても変わらない、普遍的な「文庫本の価値」を浮かび上がらせるものだった。
おそらく、この世に「文庫本」という概念が存在し続ける限り……「想像力と数百円」というキャッチコピーの価値は色あせないだろう。
一方。
結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです。
このキャッチコピーはーー
どう考えても、30年前は通用しなかっただろう。
そして、50年後には「結婚」という概念そのものが過去の遺物と化しているかもしれない。
そう。まさしくーー
このキャッチコピーは、「今」そのものなのだ。
現代という時代、そのもの。
さっきの「日本のキャッチコピーベスト500」には、帯で糸井重里が以下のようなメッセージを寄せている。
信じがたいかもしれないけれど、同じコピーは、二度と拵えられないんです。時代と企業のオーダーメイドなものですからね。
まさに……
「時代と企業のオーダーメイド」。
「結婚」の価値が揺らいでいるこの時代に、結婚の価値を「再構築」した。
結婚の価値は、本質は「ここにある」と宣言した。
2017年、結婚の価値は「ここにあるんだ」と。
「価値の再構築」。
「本質の再発見」。
そして、「時代をコトバで残すこと」。
一つのキャッチコピーが、これほどのものを残してくれる。
……さて。
「想像力と数百円」についてガッツリ語りすぎたせいで、本題のハズの「結婚〜」の方が、異様にアッサリしたものになってしまった……
でも実は、まだ語り足りない。
僕は、何故さっきの本でーー
一位のキャッチコピーではなく、二位のキャッチコピーを引用したのか。
その理由を語ろう。
おいしい生活
はっきり言って、このキャッチコピーは「格が違う」。
何故こんなキャッチコピーが生まれてしまったのか。それを生み出した糸井重里の頭はどうなっているのだろう。
西武百貨店のキャッチコピーなんだけど、実はこのキャッチコピー……
僕らの視線から公平にジャッジすることができない。
少なくとも、僕と同じ年代の方はそうだろう(24歳、社会人です)
何故か?
皆さんは、
「おいしい」
の意味を、真剣に考えたことがあるだろうか。
1 食べ物の味がよい。美味だ。「うまい」に比べて丁寧・上品な感じが強い。「魚の―・い店」「山の空気が―・い」
2 自分にとって都合がよい。具合いがよい。好ましい。「そんな―・い話が、あるはずがない」
何も不自然なものはない。
だが。
……もし。
「2」の意味が……この世に存在していなかったとしたら?
そう。
2の意味は、このキャッチコピー……
「おいしい生活」
がこの世に誕生したことによって、日本に定着することになる。
このキャッチコピーは、「結婚〜」と同じく……
「時代」を完全に切り取ったものだったらしい。
孫引きになってしまうが、
大塚英志氏は、このコピーについて『「おたく」の精神史』の中で、こういう風に述べています。「糸井がうれしいと喜ぼうと消費者に語りかけているのは、階級が喪失し、誰でもが等しく豊かになった事態であり、中流幻想の左翼的肯定こそが根幹にある・・戦後の日本社会が富の再分配を徹底した一種の社会民主主義国家に関わっている」
コトバが大分難しいが、「一億総中流」と言われ始めるのが1970年代。
その後、1980年代にこのキャッチコピーが生まれる。
誰でも等しく、百貨店のチカラで「おいしい(ちょっとお得な)生活」が実現できる。
雑誌編集長である柴崎信明氏の対談の中で、糸井サンはこう語っている。
「よりよい」で言えないことを言いたくて、
ぼくは80年代に「おいしい生活。」と言いました。
でも、あのときは「よりよい」に対して、
「おいしい」という言葉はもっと緩いというか、
価値観がバラバラになってもかまわない、
というものでした。
今の日本は、もう「一億総中流」なんて言ってられないような時代になっちゃってる。
あまりそのことを詳しく語りたくないけど……
百貨店の本質も、変化してしまった。
「おいしい生活」を求めるなら、百貨店よりもコス◯コだろう。
少なくとも、僕のイメージでは百貨店は「お金に少し余裕がある人が使うもの」だ。
まとめると、「おいしい生活」というキャッチコピーは……
- 時代を切り取り、
- (百貨店というものの)本質を浮かび上がらせ
さらに……そこに加えて。
とんでもない功績を残してしまった。
キャッチコピーが残し得るモノの、最高峰。
「『コトバ』そのものの意味を、再構築してしまった」
そんなエポックメイキングなキャッチコピー、比較対象として挙げられない。
「結婚〜」を「想像力と数百円」と比較したのは、それが理由だ。
コピーライターの山本高史氏は、『日本のコピーベスト500』の中で、こう語る。
「おいしい生活」は記念碑である。ぼくらの仕事が建立した素晴らしい記念碑である。このコピーを見るたびに背筋が伸びる。それを見つめる気持ちは誇らしさと尊敬と悔しさと取り返しのつかなさとコピーってなんなんだろとその他でないまぜである。
コピーライティング、という行為の奥深さをしみじみと実感してしまう。
……さて。
以下、余談です。
おまけ
キャッチコピーとは違うんだけど、一つ……
「お前、なんでこの世に生まれたんだ?なんでだ?」
って意味がわからなくなるものがある。
心から分からないものが。
ある意味、どんなキャッチコピーも「コレ」には勝てない。
それが、「コレ」だ。
YouはShock 愛で空が落ちてくる
冷静に考えて欲しい。
あなたが作詞家だったとする。
『北斗の拳』っていう漫画を読んだとする。
『北斗の拳』がアニメ化するから、作詞してくれと言われたとする。
普通さぁ……
「YouはShock 愛で空が落ちてくる」って思いつく?
いや、意味が分からない。
愛で空が落ちてくる、俺の胸に落ちてくるって何?
その先は分かる。
「熱い心クサリでつないでも今は無駄だよ 邪魔するやつは指先ひとつでダウンさ」の辺りは、まさに『北斗の拳』だ。
でもさぁ。
「愛で空が落ちてくる」って何?
普通思いつく?
しかも、それをあのロック調の曲に合わせて「YouはShock!!!!!!」って叫んで、そこに繋げる?
本気で理解できない。
理解できないんだけど……どう考えても……どう、考えても。
これ以上無いほど、あの曲……
『北斗の拳』なんだよな……
というか、『北斗の拳』があの曲だと言うべきか……
「作品の本質が新たに生まれてしまった」というべきか。
「おいしい生活」が生まれた経緯以上に謎だ……
余談終わり。
ってことでこの記事終わり。
お読み頂きありがとうございました。
ではまた次の記事で。