僕は吉井和哉という男に、心を囚われている。
吉井和哉にもTHE YELLOW MONKEY(以下イエモン)にも興味が無い方も、とりあえず曲を聴いて欲しい。
※YouTubeのリンクは全て公式のものなので、安心してお聴きください。
説明は不要かもしれないけど、イエモンは1988年〜2004年に活動、その後ボーカルの吉井和哉が12年ほどソロ活動の後、2016年末に再結成されたバンドだ。
THE YELLOW MONKEY - Wikipedia
THE YELLOW MONKEYのファンには怒られそうだけど、僕はイエモンのファンというよりは「吉井和哉」のファンです。
ソロ時代から吉井和哉を知って、その時はイエモンを実はほぼ知らなかった。
吉井和哉は僕の母がファンで、中学の頃までは特に聴いていなかったのだけれど……
高校の頃聴いたこの曲の重厚なサウンドに衝撃を受けて、それ以降ファンになってしまった。
2010年の曲で、イエモンの歴史からすると比較的最近の曲。
もちろん最近はイエモン時代の曲も聴いているが、高校、大学の頃の僕は「ソロ吉井和哉」の曲ばかり聞いていた。
つまるところ、僕は「にわかファン」なのかもしれない。
吉井和哉のことを解ってる、なんてそんな不遜なことは言えないけど、それでも……
僕は、ずっとこの人の曲について考えてきた。
ずっとこの人の書く歌詞について考えてきた。
ずっとこの人の曲を聴いてきた。
結論を言ってしまえば、吉井和哉の魅力は、あまりにも曲が「人間らしい」ことだと思う。吉井和哉という「人そのもの」がダイレクトに伝わってくるような、そんな曲ばかり作っている。
破裂しそうな情熱と、皮肉で冷静な知性、どうしようもない孤独。
吉井和哉の作る曲からは、痛いほどそれが伝わってくるのだ。
吉井和哉のソロ時代について語る人は、イエモンを語る人と比べるとそう多くない。
ソロだけ切り取って語っても意味は無いのかもしれない。
だが。
"THE YELLOW MONKEY IS HERE." と宣言された、この新曲。
この曲、何度聞いても泣いちゃう。
よく書いてくれたな吉井サン……
なんだか、この曲は「イエモンの復活」を堂々と宣言したのと同時に、「ソロの吉井和哉」の集大成に聴こえる。
それくらい圧倒的な完成度の曲なんです。
というか「吉井和哉がずっとソロで探してきたものの答え」はこの曲だったんじゃないか、とそう思うんです。
それが完璧な形で「イエモン」に融合した。
そう思う根拠を、少しだけでもお伝えしたい。
ものすっごく長くなりますが、僕に付き合ってください。
ソロ吉井和哉のアルバムが出た順に語ります。
ソロ時代の吉井和哉
名盤にして、迷盤:at the BLACK HOLE
- アーティスト: YOSHII LOVINSON
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 2004/02/11
- メディア: CD
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吉井和哉のソロデビュー最初のアルバム。
この頃は名義がYOSHII LOVINSON名義だった。2作目のアルバムまでは、この名義を使うことになります。
イエモン解散後初のソロアルバム。
その特徴は……
とにかく、暗い。
ホントに暗いです。
このアルバムは、正直……
物凄く賛否両論な気がします。
暗くてメッセージがかなり奥に隠されてるから、決して聞きやすいアルバムじゃない。
一曲目の20GOも凄い歌詞なんだけど、ベスト盤に収録された「TALI」こそがまさにこのアルバムのリードナンバーと言っていいだろう。
西日で部屋の全部がオレンジ色になっちゃって
未来がぼんやりでも おびえることなど何もない
人間ってむなしいもんさ 信じてるもは君だけだ
”辛かった””楽しかった”積もうね積もうね BABY I LOVE
この曲……
未だに聴くたびに戦慄する。
暗いとか明るいとかじゃなく「乾いた」としか表現しようのない淡々とした旋律に、感情の乗ってるのか乗ってないのかよくわからないAメロ、Bメロから、その旋律を引き継いだサビ。
歌詞も暗いとか明るいと言うよりも、「乾いてる」というのがやはり一番近いだろうか。
曲調と比較して2段階くらい暗いのは間違いないけど。
そしてとにかく、「重い」。
というか何食べて生きてたら「西日で部屋の全部がオレンジ色になっちゃって 未来がぼんやりでも おびえることなど何もない」なんて歌詞思いつくんだよ。
怖い。
あっちの人も失敗だ こっちの人も失敗だ 失敗運ぶバケツリレー
ねえ足りないものはなんだろう?足りないものはなんだろう?
夢だけありあまってるよ
妙に切実なのだ、この曲。
絶望や憂鬱の中でかろうじて確かなものを求めているような、そんな切実さ。
必死で求めたものを、自分自身に言い聞かせているような歌詞だ。
これは吉井和哉の特徴で、僕が恐らく吉井和哉に惹かれる最大の理由なのだけれど、吉井和哉の曲は全て「矢印が自分に向かってる」。
何故かどんな曲を歌っても聞き手に向けて何かを伝えようとしているというより、全力で自分に言い聞かせているような、そんな切実さがあるのだ。
イエモン時代からこの傾向はあったんだけど、よりネガティブになっているというか、良い意味でも悪い意味でも歯切れが悪くなっている。
閑話休題。
アルバムのエンディング曲:『SWEET CANDY RAIN』も同じく、重い。そして暗い。
ゴリッゴリゴリに暗いMVを是非見て欲しい。
- アーティスト: YOSHII LOVINSON
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 2004/01/09
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「ありがとうありがとう
私に流れた色んな人達の血」
SO SHE WAS CRAZY
まぼろしの
SWEET CANDY RAIN は止み
救いだった神にすらもう
SAY GOOD BYE SAY GOOD BYE SAY
もう誰のせいにもしないって
タイトルは「甘ぇ飴の雨」、思いっきりダジャレだけど、歌詞はドラッグジャンキー少女が自分で生きていくことを決めるっていうヘビーな一曲。
よくもまぁこんな曲をエンディング曲に置いたものだ、と思う。
絶対にこの頃の吉井和哉は、いわゆる「健康」なノリでは曲を作っていない。
ギリギリの状態で、ギリギリの作曲をしている、そんな印象を受ける。
だけど、その傾向は少し次のアルバムで変わることになる。
少し前を向き始めた吉井和哉:WHITE ROOM
- アーティスト: YOSHII LOVINSON
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 2005/03/09
- メディア: CD
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2枚目のアルバムだけど、はっきり言ってソロ時代の集大成アルバムなんじゃないか、っていうくらいの完成度。
というか……
吉井和哉ソロ時代を代表する名曲、『CALL ME』が入っているアルバムだ。
この一曲は明らかに「重さ」が違う一曲で、まさにこのアルバムのリードナンバーとなっている。
オレでよけりゃ必要としてくれ
CALL ME CALL ME
電話一本でいつでも呼んでくれ
後悔ないようにしとくぜ
パッと聞くと恋愛ソングだけど、「後悔ないようにしとくぜ」からも分かる通り、恋愛ソングじゃない。
「死ぬ覚悟はできてるからいつでも神様、呼んでくれ」って曲だ。
ゾクゾクするほどの名曲だ。
最も有名な曲だし、説明不要じゃないかな。
"人間的"とは何かな?
答えの数が世の中の形
凄いフレーズとしか言いようがない。
この曲は本当に名曲なんだけど、実は「これ以降」の曲と併せて語ったほうが面白い曲だ。
だから少しこの「CALL ME」に関しては保留しよう。
"WHITE ROOM" には他にも名曲が多い。
人気があるのはこの辺りだろうか。
一作目のアルバム"at the BLACK HOLL"からは考え難いくらい、ストレートなメッセージソングだ。
捨ててしまったもの戻ってこないけれど
なくしてしまったものなら急に帰ってくることあるんだぜ
メッセージソングなのに、全然押し付けがましくないっていうのが吉井和哉の凄いトコロ。すんなり入ってくる。
MVを是非観てほしいのだけれど、ゴルフ場で急に脱ぎ始める吉井和哉が見られます。
分かってるのに笑っちゃうので是非。
ちなみに、シングル版の『トブヨウニ』のB面には屈指の名曲
『BLOWN UP CHILDREN』
が収録されている。
- アーティスト: YOSHII LOVINSON
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 2004/07/28
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馴れ馴れしい口調で語りかけてきた
「これは愛だ」と「あなたのため」と
I CAN'T GET NO"SATISFY"
ハッタリばっかで
歴史の上で何を残すか
『トブヨウニ』のストレートな歌詞の裏側で、意味深な歌詞を残す吉井和哉。
実は、こういった「意地悪な」やり方は、結構自覚的にやってる気がする。
後述します。
渋めの一枚:39108
- アーティスト: 吉井和哉
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 2006/10/04
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ちょっと地味な印象が強い3枚目のアルバム。
ここから名義が「吉井和哉」に変わる。
良くも悪くも全体的に歌詞のスケールが非常に小さくなってて、全体的に「吉井和哉個人」が凄く見えるアルバムだ。
一曲目の『人それぞれのマイウェイ』からして凄い。
ガソリンスタンドに寄った可愛い女の店員が
オーライオーライと言った 本当にオレはオーライか?
ハイオク満タンカードで とにかく満タンカードで
給油口に入れる時のゴリっていう音キライだ
そんなこと歌詞にするか普通!?
しかも最後の「給油口に入れる時のゴリっていう音キライだ」の部分、曲が一番盛り上がるとこです。
普通そこ叫ぶ?
「ゴリっていう音キライだあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
って感じなんで是非聴いてみてください。
それはさておき、ここで出てる「オーライ(Alright、大丈夫)」って言葉、実は吉井和哉が凄くこだわって使ってる言葉です。
少なくともこのアルバム前後までの「自分は大丈夫なのか?」っていう執拗な自分への問いかけが吉井和哉の大きな魅力だったのかもしれない。
このアルバムのラスト・ナンバーは名曲『BELEVE』。
この曲の歌詞も、良くも悪くもこれまでの名曲に比べるとスケールが小さい。
それでも重みのある曲調に載せられて、心にすっと入ってくる魅力がある。
I BELIEVE IN ME
風の中 花吹雪 舞うように
思い出が満開
I BELIEVE IN ME 振り向いても
後ろには通り過ぎた景色があるだけさ
I BELEVE IN ME
どうにもならない
とは思わずに
今を駆け抜けたい
とにかく吉井和哉って人の曲には「過去に対する未練」 や「ノスタルジー」みたいなのが迸ってる。ちなみにさっき書いた『BLOWN UP CHILDREN』もノスタルジー大爆発みたいな曲だ。
実はその傾向が最も濃く見えるのはベストアルバムに収録された「ある曲」なのだけど、それも後述しよう。
筆者一押し:Hummingbird in Forest of Space
Hummingbird in Forest of Space(DVD付初回限定盤)
- アーティスト: 吉井和哉
- 出版社/メーカー: EMI Records Japan
- 発売日: 2007/09/05
- メディア: CD
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4枚目のアルバム。
一曲目の『Do The Flipping』から吉井和哉には珍しいガチ厨二病チックな歌詞とヘヴィなサウンドに魅了されちゃうんだけど……
このアルバムの魅力はリードナンバーのこの曲に詰まってると言っても過言ではないでしょう。
吉井和哉の魅力がこれでもかってほど詰まってる大傑作だ。
半端ない総量のエロスとタナトスに圧倒される。
シングルのカバーを見て欲しい。
背中のシュレッダー。
まさにこれが、この曲の主題だ。
空見合った ただ見合った 楽しかったあの日は
背中のシュレッダーにかけ
(…)
わかりあった 殺し合った
ただ深く愛しただけ
背中のシュレッダーにかけ
だからかすぐに消えた
そう。
この曲は……
過去の思い出を、見ないように、見ないように、背中にあるシュレッダーで裁断する曲だ。
どれだけ残酷な曲を書くんだこの人は。
吉井和哉の歌詞の中でもトップクラスの重さだろう、確実に。
そして最高のこのフレーズ。
神様にあったらこんな風に言うんだ
「どんな目にあっても生きていたいです」
誰も皆やっぱり同じように辛いって
この街の緑は キレイだね
そばには いつもいた
……。
熱い掌返しである。
覚えているだろうか?
『CALL ME』で歌っていたことを。
オレでよけりゃ必要としてくれ
CALL ME CALL ME
電話一本でいつでも呼んでくれ
後悔ないようにしとくぜ
もう一度言おう。
「死ぬ覚悟はできてるからいつでも神様、呼んでくれ」って曲だ。
……
気持ちが変わったのだろうか?
吉井和哉はインタビューなどの映像を見てると、結構嘘が多かったりする。
が、これに関してはガチで心変わりしたんじゃないかって気がする。
真意は不明だ……
もう一度引用すると、
神様にあったらこんな風に言うんだ
「どんな目にあっても生きていたいです」
誰も皆やっぱり同じように辛いって
この街の緑は キレイだね
そばには いつもいた
このフレーズ、「どんな目にあっても生きていたいです」から「誰も皆やっぱり同じように辛いって この街の緑はキレイだね」に繋げるのが凄すぎる。
その二つは絶対に繋がらないはずなんだけど……
「どんな目にあっても生きていたいです」って、そう言わなければならないくらいの極限状態、ふっと街の緑に目が行く、その視線の流れがあまりにもリアルなんだよね。
というか、なんか「これ限界迎えた時の俺の思考やん……」と同意してしまうような謎の力がある。
だから全然違和感がない。
これもまた吉井和哉の言語センスを如実に物語っている。
アルバムの話に戻ろう。
実は、吉井和哉の中でもトップクラスに好きな曲がこのアルバムのエンディング曲だ。ベストアルバムにも収録されていない。
※何故か吉井和哉はアルバムのエンディング曲を『BELIEVE』以外、ベストアルバムに収録していない。こだわりだろうか?
その曲の名は『雨雲』。
爽やかで明るくて、前向きで……そして同時に後ろ向きっていう変わった曲だ。
でも吉井和哉ワールドがこれでもかってほど凝縮された曲だと思ってる。
夢が叶えば夢にだまされ雨雲広がって
本当の夢を探すことこそ夢だとわかった
「追いつけない」と地球が丸い意味もそこで知った
I LOVE YOU I LOVE YOU
この歌詞を爽やかな歌に乗せるのだからたまらない。
少し話がズレるけど、吉井和哉っていう人の使う「I LOVE YOU」は「自省が限界を迎えた瞬間に生まれるもの」って場合が多い気がする。
本当にどうしようもなくなったとき、自分が抱えきれなくなった時にやっと「君」が必要になる。
そこには嘘や虚飾がまったくない。
見ようによっては歪んでるけど、それこそが吉井和哉のLOVEなのかもしれない。
露骨にそれが分かるのが、イエモン時代の代表曲のひとつ、『JAM』だ。
外国で飛行機が墜ちました ニュースキャスターは嬉しそうに
「乗客に日本人はいませんでした」
「いませんでした」「いませんでした」
僕は何を思えば良いんだろう 僕は何て言えばいいんだろう
こんな夜は逢いたくて 逢いたくて 逢いたくて
君に逢いたくて 君に逢いたくて
また明日を待ってる
この部分が非常に話題になりやすく、かつ批判されやすい部分でもある。
だけどこの歌詞を「偽善」やらそういった方向で批判するとしたら、それは全くの大間違いだと断言できる。
そもそもこの曲は
「暗い部屋で一人 テレビはつけたまま 僕は震えている 何か始めようと」
から始まることからも分かるように、物凄く矮小な自意識の歌なんです。
ニュースキャスターが嬉しそうに言うわけがない、みたいな批判も解釈の間違いです。
ここで注目しなければならないのは「嬉しそうに聞こえてしまう、暗い部屋で一人テレビ見てる自分自身」なんです。
だから吉井和哉本人も、直後の「僕は何を思えば良いんだろう 僕は何て言えばいいんだろう こんな夜は逢いたくて 逢いたくて 逢いたくて 君に逢いたくて 君に逢いたくて」のところを歌っていて泣いてしまうとどこかで語っていた。
※出典を忘れたので誰か知ってる方がいたら教えてください。
多分、そういった「限界を迎えて、どうしようもなくなったときに生まれる I LOVE YOU」みたいなものを強く大事にしてる。そんなところにも共感してしまうんですよね……
閑話休題。
吉井和哉ソロの歴史の話に戻りましょう。
吹っ切れた?:VOLT
完全に「吹っ切れた」としか言いようのないこのアルバム。
さっき貼った、吉井和哉に惚れるきっかけとなった一曲『ビルマニア』はこのアルバムの一曲目にしてリードナンバーです。
都会に上京した瞬間の気持ちをこんな曲と歌詞、何よりも「ビルマニア」っていう単語に乗せて届けるセンスには脱帽だ。
「流れるままに」最後は絶対そうしよう
愛する世界に飛び込みいい瞬間見よう
ビルマニア
聴けば一瞬でわかるようなアップテンポでハイな曲調。
カラオケでは十八番というファンも多いだろう。
PVも観て頂ければ分かるのだが、「みんなにカラオケで歌って欲しい」というメッセージでカラオケのPV風にしているそうだ。
しかも口パクで歌っているのは本人ではなく、山田孝之である。
このPVを初めてみた母が困惑していたのを未だに覚えている。
母「吉井さんなんか変わった!?」
ちなみにチラチラ映る後ろで演奏してるおっちゃんが吉井和哉だ。
徹底し過ぎだろう……
あと、吉井和哉本人が「THE YELLOW MONKEY時代も含めて3本の指に入るほど好きな曲」と語っている『ノーパン』が収録されているのもこのアルバムだ。
ノーパンで眠るあなたが愛しいよ
ノーパンで笑うあなたが愛しいよ
うん。
やっぱり「VOLT」発表された頃、吉井さんの精神が躁状態になっていたとしか思えない。
ちなみに、「パン」は音楽用語の「パン」で、音の位置が右にも左にも寄ってない「中立状態」の意味だそうだ。
へー、なら健全だね(棒読み)
「この曲絶対にベストアルバム収録されるだろうな……」と思ったら当然のようにベストアルバムに収録された。
「やっぱりかよww」感が凄かったことを覚えてる。
……で。
アルバム全体の話をすると。
実は、アップテンポで面白い曲は凄く多いし、『ビルマニア』も『ノーパン』も確実に名曲ではあるんだけど……
実は、このアルバムが僕にとっては最も物足りないアルバムだ。
なんというか、「ギリギリ感」がないのだ。
凄く健康になってしまった、というか。
いや、逆の意味で凄く不健康的なんだけど……なんて言えばいいのかなぁ……。
二曲目の『フロリダ』の歌詞なんかある意味酷くて
鳴っちゃったんだよ鳴っちゃったんだよ初めてなんだよ
アメリカでホントのロックが鳴っちゃったんだよ
いや、吉井さん……あなたがそんな感じで満足しちゃダメだろ……
っていう感じが今思っても凄い。
ちなみに僕は、このアルバム出した頃あたりに眞鍋かをりと付き合い始めたんじゃないか……と勝手に邪推しているが、真相は定かではない。
それこそ一作目のat the BLAK HOLLの「病的な感じ」と比べると、あまりにも「健康過ぎる」。
順番に聴いて、このアルバムで吉井和哉に安心した人も、逆に僕みたいに不安になった人もいそうだ。
「もう『CALL ME』や『シュレッダー』のような、病的なまでにギリギリな曲は書けなくなってるんじゃないか」
「もう『雨雲』のような新曲は聴けないんじゃないか」
少なくとも僕にはそういった不安があった。
この気持ちは、”VOLT”に収録されている曲を全て聴いて頂ければ必ず伝わると思う。
結論から言えば、この不安は払拭されることになる。
が、少し不安は続く。
やっぱり吹っ切れた?:The Apples
- アーティスト: 吉井和哉
- 出版社/メーカー: EMI Records Japan
- 発売日: 2011/04/13
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6枚目のアルバム。
"VOLT"のハイテンションの先に何があるのか……と思ったら「安定感」がありました。
って感じのアルバム。
リードナンバーの『VS』が象徴的で、これも一種のメッセージソングなんだけど、歌詞が象徴的。
元気出したい もっと出したい
常に今が最高オールライト
元気ですか? 命のヴァイヴ
闘争心を持ってオールライト
みんなファイター 愛のファイター
最後のゴング鳴るまでファイト
ヴァーサスオールライト 明日もオールライト
まだ勝敗はわからない
こ、これがガソリンスタンドで「オーライ」って可愛い女性の店員に言われて「ホントに俺はオーライか?」と自省してた人の書く歌詞なのか……
どう考えても健康な方向に向かっている。
このアルバムのエンディング曲は、東日本大震災後、ようやく落ち着いてきたテレビの放送で被災者に向けて披露された名曲、『FLOWERE』だ。
これがもう、ホンットに「良い曲」なのだ。
完璧に良い曲。
……いや、語るのが面倒になったわけじゃなくて。
本当に語るのが野暮なくらいの良い曲なんです。
ただ、やっぱり「意地の悪さ」も残ってて。
アルバムの代表曲の中の一曲、「LOVE & PIECE」ではこんな感じで歌ってるくせに……
悲しい未来だけ ただ想像していた それはそれで悪くはない
でも「愛」とかっていうのはもっと重たい 僕はどっかそう信じてるんだ
一方、同じアルバムに収録されてる『おじぎ草』の歌詞がこれだ。
私は愛の重さとかはどうでもいい
えぇ……(困惑)
まぁ、『おじぎ草』は歌詞全文読んで頂ければわかるのだけど、完全に肉体的エロスに吹っ切ったような曲なので、別に矛盾してるわけじゃないんだけどさ……
あっ……でもこれ、吉井和哉目線じゃなくて……(吉井和哉が一夜を過ごした)女性目線の曲かも……
そう考えるとこれ、めっちゃ高度な一種の自虐ソングやん……
とにかく。
"The Apples"ってアルバムは意地の悪さや実験性を含めても、本当に「完成された」アルバムで……
逆にそれが少し寂しかった。
本気で。
が。
事態はここから、急変する。
なんだこのアルバム!?:After the Apples
- アーティスト: 吉井和哉
- 出版社/メーカー: EMI Records Japan
- 発売日: 2011/11/16
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"The Apples" から約半年で出されたミニアルバム。
僕の母が「なんでこんな急に頑張りだしたんやろか……」と心配してたことを覚えている。
このアルバム……
評価に困る。
というか、シュール過ぎる。
リードナンバーを聴いて欲しい。
モネの絵みたいな港町 いつもの母の朝
長男の部屋は物置に 次女とは会話が無い
光る煮物の芋 誰かから電話
大事なさんまが焦げるわ あら箸が無い
タイトルのまんま、母いすゞの歌としか言いようがない。
そして全編聴いて頂ければ確実に分かるのだが、物凄くタナトスに溢れた曲になっている。
……。
なんだこれは、どうすればいいのだ。
多分、否、間違いなく吉井和哉アルバム史上最も難解なアルバムと言っていい。
異色作だ。
異色すぎて語りにくい……
歌詞は相変わらず凄いんだけど、なんというか。
斜め上なのだ。
ベストアルバム聴いた直後に聴いてみてほしい。
……。
さて、こんな形で困惑した直後にベストアルバムが出されるわけだけど……
実はこのベストアルバムは、実質的に新作と言ってもいいようなアルバムだ。
ベストアルバム:18
- アーティスト: 吉井和哉
- 出版社/メーカー: EMI Records Japan
- 発売日: 2013/01/23
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吉井和哉のベストアルバムは絶対に『躁鬱』ってタイトルだろうな……
と思っていたのだが、そんなことなかった。
二枚組で、一枚目が「YOSHII LOVINSON」寄りの曲、二枚目が「吉井和哉」寄りの曲になっている。小粋だ。
そして新曲が計4曲収録されているのだが……
この新曲の存在が、あまりにも大きすぎるのだ。
「これは並べて聴いてもらったときに、YOSHII LOVINSONとちょっと前までの吉井和哉が、最新の吉井和哉を挟んでるっていうイメージでこの選曲にしたんです」
その「最新の吉井和哉」を象徴する名曲こそが。
『Hearts』だ。
聴いた時の感想は、「聴きたかった吉井和哉が帰ってきた」だった。
いや、マジで。
実際、ファンからの人気投票では『CALL ME』に匹敵する程の人気曲です。
やっぱり吉井和哉の魅力は「自分に必死に言い聞かせる歌詞」にあるのかもしれないと再認識した。
この曲は明らかに「再スタート」のための曲なんだけど、そこにも「迷い」や「ゆらぎ」が浮かび上がっていることに、心をぐっと惹かれる。
帰りたい 帰れない あの日の街には
そろそろ始発のバスが出る
最初は歌詞を「帰りたい 帰らない」にする予定だったらしい。
でも、それはできなかったとか。
※これもどこで読んだか忘れちゃったので、情報提供お待ちしてます
-5度の雪国のスタバの横に昇る朝日
曲調が完璧だからか、凄く鮮明にこの情景が浮かび上がる。
凄く好きなフレーズ。
インタビューも充実してるのでぜひお読み頂きたい。
それと『煩悩コントロール』や『血潮』も問答無用の名曲だ。
もう、ホンットに好きとしか言いようのない歌詞。
「何処から来たかより 何処へ行くか」だとか
言うから過去を撫でてまた前向いて
恋が生まれたあの日のことを
「ダメだった」「良かった」と繰り返しながら
続くどこまでもこの広い大地 野望
本当か嘘か今でも迷うけど
この騒いだ血潮が透き通るまでは騙されてみようか
さようなら いつも 怯えていた私
吉井和哉の「過去との距離の取り方」は本当に素晴らしいと思う。
そこにどっぷり共感しちゃったんだなぁ、と。
さて、凄く長くなったがそろそろ。
実質的な「ラスト・アルバム」の話をしよう。
「吉井和哉」のラストアルバム:STARLIGHT
「実質的な」ラスト・アルバムと言ったのは理由があって、さっき少しだけ語ったB面集の"SUPERNOVACATION"や、
カバーアルバム、ライブアルバムなども出している。
が、実質的なラスト・アルバムはこの一枚だろう。
リードナンバーはこの一曲。
イエモンのファンは一発でお気付きだろう。
この頃になると、僕もイエモンの曲を聴くようになっていたから一瞬で理解した。
あ、この曲イエモンだ、と。
凄くイエモンっぽいのである。
活動に凄く前向きになっていること、その流れの中でこれほど「イエモンっぽい」曲を出してきたこと……
多分、この曲を聴いて「イエモン復活するんじゃないか?」と思った人は少なくないと思う。
『(Everybody is) Like a Starlight』も名曲なのだけれど、このアルバムはエンディング曲があまりにも素晴らしい。
最高の「卒業ソング」。
歌詞は前向きなんだけど、漂う寂しさにどこか「ソロ初期吉井和哉」を感じさせる名曲だ。
と思ったらこの曲は3枚目のアルバム"39108"が出た時点で出来ていたらしい。
- アーティスト: 吉井和哉
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 2006/10/04
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が、曲調があまりにポップでボツにしたとか。
でも結果的に、ソロラストを飾るにふさわしい一曲になっていた。
これも一つのめぐり合わせなのかもしれない。
今日は頭クリアだ
花吹雪が光に舞う
今日で全部クリアだ
何もかもが眩しくなる
今日でここを卒業だ
君の顔も見れなくなる
愛が終わりのない青空に吸い込まれた
卒業ソングとして出来が良すぎて、普通に卒業式で流してほしいのだが、残念ながら高校の卒業式には……
帰りたい帰れない……
と、いうことでソロの吉井和哉はこの『クリア』がまさに「卒業の一曲」となって……
ん?
……んん?
……
名曲だけど、ソロラストの一曲は『クリア』であってほしかったな……
(個人の感想です)
【追記】
そもそもソロ、まだ終わるつもりはなかったみたい。
新曲"Island"収録。
今後ソロとしても続けるのだろうか?
それにしても新曲を除いたラストの一曲が『ノーパン』なんだけどどれだけ好きなんだ……w
そして『Island』は大傑作です。
筆者『Hearts』に並ぶくらい好き。
【追記ここまで】
さて、ついに時代は先に進む。
イエモン、此処に復活
さあ、皆さんもご存知のようにイエモンは復活した。
ってことでファースト・シングルはどんな曲かというと……
まさかのタイアップだった。
ドラマ『砂の塔』のテーマソング。
ドラマを観ていないのでなんとも言えないが……
物凄くコメントに困る曲がファーストシングルに来ちゃったな……
という感じだ。
いや、凄く良い曲だし大好きですよ。
でも「ソロっぽい」とか「イエモンっぽい」とかっていうより、「ドラマのための完璧な曲を作った」感が先に目立っちゃって……
なんだか上手く言葉にできない。
「安定はしない」っていうフレーズを歌詞のキメに使うセンスには脱帽だけど……
と思ってたらYouTubeのコメントが実に素晴らしい。
ぐうの音も出ない。「音に名前が書いてある」って良い表現だなぁ。
確かに、今までの比較って考えないほうがいいのかもしれない。
でも。
この曲のB面の曲。
コメントで指摘されて気付いたのだけれど、『砂の塔』よりもこちらの方が先に発表されたため、実質こちらの曲が再結集のデビューシングルとなる。
その曲は、確実に「ソロ時代との比較」で考えた方が良いと思ってる。
その曲の名はーー
『ALRIGHT』だ。
ついにタイトルにしちゃったか。
あなたに抱かれて あなたと乱れて
ひとつに生まれて ふたつに別れて
背中に隠した 願いを広げて
もう一度羽ばたけ
今夜 準備 ALRIGHT!
うん、名曲です。
うん。
でもなぁ……
何度も言うけど、吉井さんって「ガソリンスタンドでオーライって言われてホントに俺はオーライか?」って言うような人だったよね?
なんだか……
「本当にイエモンとして復帰してオーライになっちゃったのかなぁ」って寂しくなったのだ。
『CALL ME』の、『シュレッダー』の、『HEARTS』のギリギリ感、NOTオーライ感はもう無いのかなぁって。
少しだけ、ソロ時代のファンとして寂しかったのだ。
だからこそ。
だからこそ、本当に嬉しかった。
吉井和哉が、ソロ時代の吉井和哉と「決別」させてくれるような曲を出してくれたことが。
ロザーナ
……もうね。
何度聴いても涙出ちゃう。この曲。
絶対にPVを観て欲しい。
『HEARTS』を初めて聴いた時の嬉しさを超えた。
『HEARTS』を初めて聴いたときは、「聴きたかったソロ初期吉井和哉が帰ってきた」と思った。
でも、『ロザーナ』は違う。
「ソロの吉井和哉は、もう帰ってこなくていいんだ」
と、心からそう思った。
「ソロの吉井和哉」が、完全な形で「THE YELLOW MONKEY」に復帰した。
「名曲」なんていう言葉では足りない。
問題ない そう問題ないよ 太陽もうなずいたよ 行こうよ ロザーナ
君といられた 長いようで短いこの時代は
神様にしかチェスは動かせないの?
凍りつくような悲しみ 溶けるほどの喜び
迷い続けた答えはなんて言ったの?
……これ。
もう、なんて言えばいいんですかね……
ソロ時代聴いてきた、「そのまんまの気持ち」歌ってくれてるんですよ。
いや、上手く言えない。でも何か、「吉井和哉を聴きながら探してきたものはコレだ」を全て提示させられてしまったような。
間奏で繰り返される「問題ない そう問題ないよ」。
吉井和哉が自分自身に言い聞かせてるハズのその言葉が、これまでにないような確信を伴っているように繰り返されている事実が、凄く突き刺さる。
ドアを開けたら 見たような見たことない景色が
きれいな色で塗り直されて見えた
この歌詞のタイミングで映像が色付く演出がニクい。
帰ることのない街 戻ることのない道
走り出したら次のゲームを始めよう
あれだけ『HEARTS』で帰りたい、帰れない街にこだわってた吉井和哉に「次のゲームを始めよう」って言われて。
その上で……
こんなもの、見せられたら。
泣くしかねえじゃねえか……
ああ、きっちり「イエモンとして」のスタートを宣言されちまった。
完璧すぎた。
「吉井和哉はもう『CALL ME』みたいな名曲を書けないんじゃないか?」みたいな不安は、もう微塵もない。
こんなとんでもない名曲出されたら……
新しい「THE YELLOW MONKEY」と生きるしかないじゃないか。
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ってことで非常に長く語りましたが……
ソロ時代の吉井和哉について、少しでも僕の気持ちをネットの海に残せたなら幸いです。
「イエモンは聴いたことあるけどソロは聴いてない」って方にも、ソロ時代の吉井和哉を聴き直して頂ければ、こんなに嬉しいことはないです。
そして『ロザーナ』を聴いて泣く僕の気持ちを理解して頂けたら凄く嬉しい……
お読み頂き、ありがとうございました。
ではまた次の記事で。