こんにちは、Mistirです。
この記事は、『異世界はスマートフォンとともに。』に対する屈折した愛情をこめて書いております。
批判的な論調になりますが、楽しんでらっしゃる方を否定する意図は一切ございません。ご了承ください。
前置きはこれくらいにしておいて、語りましょう。
新たな歴史が刻まれてしまった。
『異世界はスマートフォンとともに。』通称『イセスマ』『異世界スマホ』の11話だ。
『異世界はスマートフォンとともに。』というアニメについては、以前詳しく語っているのでぜひお読み頂きたい。
さて。
11話がことさら話題になったのは、以下のツイートが発端だ。
今まで異世界スマホを1話も観たことがない人も、ニコニコ動画で無料なうちに11話だけ観て欲しい。ハーレム系アニメの悪いところが全部詰まっている歴史的回だから
— やきそむ (@burningudon) 2017年9月21日
続々と感想が集まり、しかもその視聴者の殆どが……
虚無、あるいは不快感に飲まれていた。
問題の11話だ。
さあ観ろ。今なら無料だ。
何?無料期間が終わっている?
課金すればいいだろ!!!
……これは本当の話だが。
僕は異世界スマホに合計2話分。約450円課金している。
まぁポイントが余っていたのと見逃してしまっていたからなのだが、これは紛れもない事実だ。
君らも課金しろ。
すればいいだろ。
僕もしたんだよ。
……。
まぁ。それでも観たくない人もいるだろう。
……観てくれよ。同じ気持ちを味わってくれよ。
……。
仕方ないので、あらすじを紹介したブログを紹介しよう。
この方は『異世界スマホ』を他の「ハーレム系アニメ」と同じ分類で語っているが、僕は少し方向性を変えて「『異世界スマホ』は本当に他のハーレムアニメと同列に並べられるものなのか」あるいは「『異世界スマホ』が見せた『ハーレムアニメの悪いところ』とは具体的に何なのだ」という観点から語ってみよう。
※上の記事を書かれた方は「いまからISUCA完走してこい」で記事を締めていますが、この一文で筆者の方が「ホンモノ」であると断言できます。僕は僕として別の方向から語るというだけの話です。
なお、あらかじめ言っておきますが、『異世界スマホ』を悪く言うつもりはあまりありません。
なんせ僕は今現在、『異世界スマホ』11話を無限にリピートしながらこの記事を書いています。
もう何度見たかわからないくらい見ました。
……いや、やっぱり不快なんですよ。でもそれが気持ちいい。もう何がなんだかわからない。
愛の方向性が歪んでいることは全面的に認めます。
でも、好きという気持ちに偽りはありません。
ワルブレの方がもっと好きですが(以前の記事参照)
さあ、そろそろ本題に入ろう。
歴史を刻んだ『異世界はスマートフォンとともに。』11話を「読み解き」ましょう。
そもそも他のハーレムアニメと同じ?
実は前期のアニメにちょうど良質な(?)サンプルとしての「ハーレムアニメ」があった。
『エロマンガ先生』だ。
はっきり言ってなかなかこのアニメも……正直なところ「気持ち悪いシナリオ」ではあるのだけれど、少なくとも『異世界スマホ』11話が発しているほどのシュールストレミングのような臭気は感じられなかった。
その理由を考えてみると、色々なものが見えてくる。
※断っておきますが、『エロマンガ先生』を持ち上げて、『異世界スマホ』を下げるという意図はなく、あくまでも比較のために持ち出しています。
『エロマンガ先生』の内容をごく簡単に説明すると、
「主人公(ライトノベル作家)とその妹(ライトノベル絵師)のハートフル(?)ラブコメ」って感じの内容で、ポコポコと主人公以外のライトノベル作家(美少女)が現れては、主人公を好きになっていく。
とはいえメインは妹を除き、二人だが。
……この概要だけを読まれたら「何が面白いんだよ」と思われるかもしれない。
だが、これがなかなか面白い。
まず、主人公は妹以外の女の子が目に入ってない。
最早他のヒロインが見てて可哀想になるレベルだ。
その「可哀想っぷり」を楽しむようなアニメだと言っても過言ではないかもしれない。
しかも、その「他のヒロイン」が妙に魅力的なのだ。
……いや、どう考えても要素詰め込みすぎやろ!
というキャラではあるのだが、これがどうしたことか、アニメの中だと結構きっちりキャラが立ってる。
……うーん、見てない人に魅力を説明するのって難しいな。
だからもう端的に結論を言うけど……
確かに、ヒロインは多い。ヒロインじゃない女の子も多い。
しかも主人公はモテる。
でも。ここからが大事だ。
……作者の願望が、あまり透けてこないのだ。
例えば「ハーレム作ってうっへっへ」みたいな願望は、これがもうびっくりするほど見えない。こんな可愛い女の子いっぱい出しながら、見えないのだ。
作者の思いが透けて見えるとしても、たったの一つ。強烈な一つ。
「この作者妹好きすぎるだろ」という、その一点のみなのだ。
こんな記事をお読み頂いている方々に説明するまでもないかもしれないが、作者は一時代を築いたと言っても過言ではない
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』
の作者だ。
俺の妹がこんなに可愛いわけがない。 Blu-ray Disc BOX(完全生産限定版)
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こちらも同様。猛烈な「妹好き」は見えてくるのだが、「作者にハーレム願望がある」とは一切見えてこない。
何故「見えてこない」のか、それを語るのは非常に難しいけど……
キャラクターやシナリオの強さ、テンプレートから絶妙にズラす構成力、そういったものが深く関わっているというのが僕の考えだ。
テンプレートからズレたときにこそ、キャラクターは「命を得る」。
じゃあ逆に『異世界スマホ』は「作者が強烈に臭ってくるか」というと……
これが、視聴者によって2パターンに分かれると思っている。
「作者の臭いしかしない」もしくは「作者の臭いが一切しない」。
これは対極のように見えるが、実は表裏一体で……
実は、後者は本当にタチが悪いのだ。
ゆっくりと語ろう。
話はまだ続く。
「作者が見えない」とはどういう意味か
結構単純な解釈として、「作者の願望が詰まりすぎている」と言われるのが『異世界スマホ』の特徴だ。
異世界スマホの作者絶対いじめられていた、俺にはわかる pic.twitter.com/spIjnaofsg
— あ (@__train) 2017年9月22日
いじめられていたかどうかは別にして。
あまりにも「無敵だぜ」感が強すぎるのは間違いない。
というかはっきり言って「中学生の妄想そのもの」だ。
「中学生の黒歴史ノートを見せられている気分」……これが不快感の一端であることは間違いないだろう。
まるで中学生が考えた設定集を見せられているような。
……だが。
……本当に、それだけが不快感の理由なのだろうか?
……僕個人の感想だが。それは25%に過ぎないと思っている。
ーー本当に、僕らの前に「作者」は現れているのだろうか?
実は、僕の意見はこっちに近い。
噂の異世界スマホ11話見てる。これは…高い精神点ダメージを受けるっ…がっ、虚無の正反対、ここまで感情を揺さぶられるのは"本物"なのではないか。かなり作り込まれているし、00年代のテンプレ「のみ」で構成されているこれは、確実にデザインの哲学がある
— たっくまん@技術書典3 (@tackman) 2017年9月22日
そう。
以前の記事で、僕は「僕らは脂の乗ったトロを食べたいのであって、脂を抽出して飲み干したいのではない」と語った。
『異世界スマホ』は「脂のみ抽出した」物語だと、そう語った。
実は、その傾向が最も顕著なのが11話だ。
ちょっとエロいアンドロイドがもう兎にも角にも「男にとって都合のいい」方向で設定されている。
何をしても主人公はageられるし、女の子は……
「物語にとって、都合の良い動きをする」。
そう。11話の不快感の最たる理由は。
「物語にとって、あまりにも都合の良すぎる女の子」、つまりキャラクターとして「ゾンビ」と化した女の子にあるのではないか。
しかも、その「物語」は「物語」というよりも。
「売れる要素の集合体」だ。
つまり、こう言いかえることもできる。
「『売れる要素』のためだけに生かされている女の子」
と。
考えてみれば、変な話だ。
主人公は強い。まぁ、だいぶ説得力は欠けるが女の子のために行動することも多い。……だいぶ説得力は欠けるが。
主人公と冒険を重ねて、女の子は主人公を好きになる。
……別に、そこまで変ではないはずなのだ。それ自体は。
だが、ここまで強烈な違和感を覚えさせるのは「『物語』あるいは『売れる要素』のために最善の行動を取るヒロイン」が、あまりにも人間味を欠いているように見えるからではないか。
その結果、猛烈なまでに奇妙な逆転現象がこのアニメでは起こっている。
ニコ動のコメントや色々なところでの感想を読んでいると、このリーン(cv上坂すみれ)がヒロインの中で一番人気があるようなのだが……
このヒロインだけ、唯一。
主人公に惚れていない。
主人公に一切恋愛感情を持たないヒロインが人気になること自体は珍しくないが、……このアニメの場合、それとはまた異なる現象が生じているように思う。
そう。
「主人公に惚れていないという事実が、キャラを立たせている」のだ。
「そんなことある?」と思われるかもしれないが、11話通じて見た上での紛れもない感想だ。
大なり小なり、「人間の考えを持って動いているのではなく、物語のために都合のいい動きをさせられる」場合、キャラクターは不気味に映る。
というか……具体例は山ほどあるのだけれど、あまり語りたくない。
最初に言われている「ハーレムアニメの悪いところ」とは、具体的にはそういうことなのだと思う。
「女の子の気持ちじゃなくて、それは『男にとって都合のいい女の子のイデア』の気持ちじゃないのか?」
「君は、その代弁者でいいのか?」
大げさに言う~の~ならば~きっとそういうことなんだろう~
はっきり言って11話冒頭に出てくるアンドロイドの女の子の発言なんて、オ○ホのそれでしかないわけで。
不快にならない方が難しい。
アンドロイドが人間味の無い思考をするっていうのはベタと言えばベタだけど、どう考えてもその意図で描かれていないあたりも強い。
中盤についても。
一応「一夫多妻の世界」という設定はあるらしいが、「みんなでお嫁さんになりましょう!」と発言するヒロインなど、嫌悪感しか覚えなくて当然だ。誰かも言ってたけどキャバクラじゃないんだから。
「一夫多妻の世界」の設定の裏付けも、結局は作品外、つまり「売れるため」という点にしか見出だせない。
ちなみに僕が大好きなハーレムアニメに『武装少女マキャヴェリズム』というアニメがあるのだが、こちらは猛烈に主人公が格好いい。
ハニートラップ(?)を仕掛けられても、自分の主義(他人から強制されることは絶対にしない)を優先する等、カッコよさが随所に光る。『COBRA』の主人公、コブラと少し似ている。
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……ただ『武装少女マキャヴェリズム』は人を選ぶ作品なのでここでは語らないでおきます。
要は、ここまで語ったことは「何故ラブコメの主人公は格好良くなければならないのか」という問いへの解答でもあって。
主人公が男でさえ惚れるほど格好良ければ、「ただ主人公を好きな女の子」にも十分以上の命が宿るんです。
時折話題になるジャンプのハーレム漫画『ゆらぎ荘の幽奈さん』は相当に弁えている。
色々なところで言われているが、本当に主人公が格好いい。ちょっとチートすぎるけど。
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以上を踏まえて『異世界スマホ』11話が多くの人に不快感を与えてしまった理由をまとめよう。
ある人には、「中学生の妄想ノートを読ませられているような感覚」を。
ある人には、「命の宿らないゾンビが可愛い声で演技をしているような感覚」を。
どちらか一つ、あるいは同時に与えてしまったということ。
少なくともそれは一つの事実だろう。
僕は少なくとも、ここまでキャラクターが「売れる要素の奴隷」で「精神を支配されている」ようにしか見えず、かつここまでテンポの遅い一話を他に知らない。
そういった意味で、この『異世界スマホ』11話は記念碑的な作品であると言えよう。
※余談だが、今ニコ動で「批判の多かった某アニメ」と『異世界スマホ』のコラボ作品が流行している。「批判の多かった某アニメ」の「批判」内容がまさに「キャラクターが物語展開の奴隷になっている」点だったのは、偶然だろうか?
ここからは僕の話をしよう。
……僕の「業」の話をさせてほしい。
もうそれでいいかなって思えてきた
真逆のアニメ、「キャラクターが生きてるアニメ」は、良質なものが多い。
そういった観点で言えば、少なくとも『異世界スマホ』は「良質なアニメ」とは言えないだろう。
……だけど……
嫌いになれないのだ。
全然、嫌いになれないのだ。
現に今僕は11話を延々とループしている。
なんでだろう?
僕を含む一部の種族には、「命の宿らないキャラ」を見ながら「はっはっはありえねーwwwww」とぼやきつつ酒を飲む楽しみに目覚めてしまった輩がいる。
要するに、そういうことだ。
まぁ楽しみ方は人それぞれだし、楽しみ方なんてあればあるほど良いに決まっている。
だが一方。
この楽しみ方は脳機能を麻痺させる麻薬でもある。
「良質で、キャラが生きている物語」は往々にして、重く、疲れる。
例えばガンダムの富野由悠季監督や、ジブリ作品はそういった物語が多い傾向がある。
説明してくれないのだ。
登場する人々は、決して「僕らのために都合の良い行動」を取ってくれない。
そういった物語で最近特に話題になったのは、もう間違いなくこの作品だろう。
「物語のためにキャラクターが生かされている」の対極。
「人が生きて、物語が生まれる」の到達地点の一つだろう。
……。
が、言うまでもない。本ッ当に重い作品だ。
『異世界スマホ』の無限倍だ(こちらは質量がほぼ0のため)。
色んな人が「虚無を感じた」という『異世界スマホ』だが、理由は先述したように「売れる要素のためだけに動かされるゾンビを見たときの虚無感」だと思っている。
だがその虚無感を楽しんでしまう人もいるわけだ。
ゾンビ映画で人が死ぬ時に「ヒエッ」ってなる人と「あっはっはまた死んだ!!!」って笑う人の差ですね、これは。
まぁ。
たまには「重い」作品も見て、脳の「消化力」を下げないようにしようと思う今日このごろだ。僕とは逆に、11話で初めて『異世界スマホ』のような作品に触れられた方は「B級映画の楽しみ方の勉強」みたいな気分で、再度観られても良いかもしれない。
念のため、あと三回くらい貼っとこう。
お読み頂き、ありがとうございました。
ではまた次の記事でお会いしましょう。