こんにちは、Mistirです。
「生きていてよかった」。
そんな夜を探していると、フラワーカンパニーズは『深夜高速』で歌った。
「生きていてよかった」。そう心から思える作品に出会えることは稀だ。
僕らはいつも、何かの作品に対してクソだのなんだのと、時には貶し、時には絶賛しながら、たくさんの作品を消費している。
多分前期アニメで最も話題になった作品は『ポプテピピック』で、意図的に練り上げられた、洗練された「クソ」に対し、半ば呆れながらも僕らは賛辞を送った。
でも。
『ポプテピピック』の流行の裏で、……視聴者の大半が絶賛した、「怪物のような」作品が放送されていた。
僕はその作品があまりにも面白いと人づてに聞いたから、最終話が放送される頃にまとめて観た。
全話見て、僕はーー
言葉を、完全に失った。
毎話毎話、気付いたら僕は涙を流していた。
4話あたりから量を増していく涙は、12話で僕に過呼吸を起こさせ、最終話で僕は笑いながら泣いていた。
実際問題12話は「ボクサーのジャブを食らってると思ってたら急に両手両足を日本刀で叩き斬られた」ような強さがあった。
「この作品に出会わせてくれてありがとう」と、感謝の気持ちで満たされるような作品。「生きていてよかった」と、そう思わせてくれるような作品。
その作品の名はーー
『宇宙よりも遠い場所』だ。
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胸が熱い。まだその感覚が抜けきらない。
正直、これほどの作品に対して「言葉を尽くす」ことに意味があるのかと……
そんなことを言われても仕方がないほどの大傑作だと思っている。
それに、既に先人たちが素晴らしい批評を残してくれている。
だけど……
語らなければならないのだ。
それが僕にとっての……この作品に対する、向き合い方なのだ。
長い夜になる。
僕は1話から改めて『宇宙よりも遠い場所』を観ながら、少しずつ、少しずつこの作品を語ろうと思う。
さぁ、語ろう。
淀んだ水は、流れなければならないのだから。
※!この記事は最終話までのネタバレを含むので、必ず最終話まで観てからお読みください。
「淀んだ水」の多義性
淀んだ水が溜まっている。
それが一気に流れていくのが好きだった。
決壊し、解放され、走り出す。
淀みの中で蓄えた力が爆発して、全てが動き出す……!
この印象的な第一話の導入は、作品のまさに「骨格」だ。
先に紹介させて頂いたブログでも指摘されているように、この作品は「反復するモチーフ」が幾度となく登場するのだけれど……
この「淀んだ水」の比喩は、モチーフを通り越して作品「そのもの」と言ってもいいかもしれない。
この作品は「ロードムービー」であり、ロードムービーであるからには「旅」が描かれているわけなのだけれど……
「旅」とはそもそも
「日常のしがらみから逃れる行為」あるいは「日常のしがらみを壊す行為」
だ。
「しがらみ」は漢字で「柵」と書く。
「柵」を壊す。
「呪い」を解く。
「重荷」を下ろす。
「過去」を精算する。
あるいは、その全て。
そのテーマこそが……時には揺らぎ、時にはネジ曲がり、時には視聴者を罠に嵌めながら反復される。
それがこの作品なのだ。
第1話
さて、第1話。
「伝説の始まり」にして、誰も「伝説」とは思っていなかった頃だ。
おそらく「このアニメは名作になる!」と思った人はたくさんいるとは思うのだけれど、大半の人がその「名作」のレベルを大幅に上方修正することになったのではないか。
そうなってしまうのも無理はない。
簡単な話、第一話は「普通のアニメ」なのだ。
名作の予感はさせているが、それはあくまでも「名作アニメ」の枠組みに収まっている。
あるいは意図的に「そう思わせている」。
この時点では明確な「主人公」であるキマリは、はっきり言って……この段階では「ありきたりすぎて逆に新鮮」なくらいのキャラだ。
身も蓋もないことを言ってしまえば「女子高生が青春の無駄使いに悩んで旅に出る」なんて、陳腐過ぎて2018年のアニメで扱ってるのが新鮮なくらいだ。
その印象自体は第1話を最後まで見ても、そう大きく変わることはない。
……またまた話は変わるのだが、僕はAmazon Prime Videoでこのアニメを全話見ている。
そして、今はdアニメストアニコニコ支店でこのアニメを観ている。
一周目はコメント無しでみて本当に良かったと思っているんだけど、二週目でコメント付きで観ると……
「すごい作戦があるんやろなぁ…」
「しらせ株 時価発行増資のおしらせ」
……いや、面白すぎるでしょこれ。
実際のところ、この時点だとしらせはまさに(原義としての)「リーダー」だ。
突如現れた「リーダー」が、キマリの中に滞留していた「淀んだ水」を決壊させた。
……これって、意図的に悪い言い方をするならば。
よく批判される「異世界転生してハーレム」といったような「棚ぼた展開」と、実はそう変わらない。
もちろん、その中身はとても丁寧な演出、作画、演技、脚本。
全てにおいて好感が持てる「良質な」アニメだ。
だけど……それ以上ではない。
明確にそう思ったわけじゃないけれど、第一話の時点では……それに近いことを思った人は多いと思う。
だがもう、今なら分かるだろう。
既に僕らは「罠」にかけられていたのだ。
第2話
第2話。
さっそく、しらせの株価が下がり始める。
「信念も行動力もあるやつが意外とポンコツ」っていう、ありそうでなかったキャラクター性に僕らは気付く。
……そしてまぁアニメらしい「流れ」で日向も仲間になり、2話は全力疾走「助走」として終わっていく。
歌舞伎町で大人から逃げるという、ある種微笑ましい「冒険」はキマリの鬱屈を洗い流してくれる。
語ろうとすれば幾らでも語れるのだけれど、記事の長さが10万字くらいになってしまうので2話に関してはこれくらいでいいだろう。
……そう。
ここまで。
もうこれだけで、「キマリの鬱屈はほぼ解けている」のだ。
呪いが解けた、と言い換えてもいい。
……はっきりと言ってしまえば。
キマリの淀んだ水は、もう決壊している。
キマリの物語は……実はもうここで、一区切りついているのだ。
……しらせはこの時点で「南極」に呪われているように見える。
けれど、キマリが今のところ「等身大の女子高生」として描かれているのに対して……
そういった「青春の鬱屈」よりも先のフェーズで、信念を持って生きている。……ように見える。ポンコツだけど。
……それが視聴者にかけられた「罠」であることに気付くために、僕らは12話を費やしたわけだ。
そう。
何度でも言うがこの物語は、「淀んだ水が流れ始める」物語なのだ。
第3話
さて、第3話。
キマリの淀んだ水を囲っていた結界は、たったの2話で相当量決壊した。
第3話はどうなる?
なんと4人目の仲間(ほぼ初登場)の淀んだ水が、登場早々約20分で流れ始めるのである(!!!!)
「友達」を誰よりも求めていた結月の呪いを解いたのは、他でもない三人だ。
今頑張って入っていかないと、そういう関係とかグループとか、形ができちゃうっていうか……
ずっと気後れして、コンプレックスを抱えていた結月の呪いはいとも容易く崩壊する。
なんだこのスピード感。
スピード感がありすぎて、ご都合主義的にさえ見えてしまう。
……だけど。
この物語は、徹底的に、徹底的に、徹底的に徹底的に徹底的に「淀んだ水を流す」アニメなのだ。
これくらいのスピードが「必然」だったのだろうと、今なら分かる。
第4話
第4話は一種の「繋ぎ」回だ。
ここでやっと僕らは「ああ、本当に南極に行くんだ」と理解することになる。
「南極に出発したところでほぼ最終話のあたりかな」などと思っていた視聴者はここで「ざまーみろ!」としらせに罵倒されてしまうわけだ。
ホント、いくら何でもテンポが良すぎる。
第一話の時点で、まさか「第4話の時点で測量の練習してるよ」と言っても誰も信じないだろう。
どんなテンポやねん。
そして少しずつ「しらせの母親の話」が浮かび上がってくる。
この作品最大の仕掛けにして、最高のクライマックスである第12話に繋がる最も重要な「淀み」なのだけれど……
今ならもう僕らは知っているだろう。
だけどまだ気付いていなかった。
気付いて、いないのだ。
おそらく……
否、間違いなく……
しらせ本人にとっても、そうなのだ。
第5話
さあ、第五話。
あとで知ったことだけれど、ここまでほぼ高評価しかなかったこの作品でほぼ唯一「賛否両論」と言える回だろう。
(強いて言えばあとは第8話のデッキに飛び出すシーンかな)
……もうお分かりだと思うけど、僕は今ニヤニヤしながらこの記事を書いてます。
最終話は泣きながら笑ってました。
僕はそもそもこの『宇宙よりも遠い場所』の主人公は5人だと思っていて……
5人目は誰か。そんな野暮なこと、言う必要はもうないだろう。
僕は第5話を最初に観たときから大好きだった。
やっと、「普通の人」の、闇を抱えたキャラが出てきた気がする。
キマリは等身大の「主人公」かもしれないけれど、……人間らしい腹の黒さや、人間らしい闇を抱えたキャラかと言うとそうでもない。
しらせも散々作中で「性格が悪い」と言われているけれど、めぐっちゃんの生々しさとは性質が異なる。
……が、
自分に何もなかったからキマリにも何も持たせたくなかったんだ……
ダメなのはキマリじゃない……私だ……
ここじゃないところに向かわなきゃいけないのは……私なんだよ……!
はい、改めてこのシーン再生して僕は泣いています。
初見のときも、この回辺りから毎話泣くようになりました。
ああ……ああ、本当に、……本当に、いい作品だなぁ……
本当に……!いい作品だな……!
最終話まで観ると全く違った見え方になる。
5話が賛否両論だったのはある意味当然かもしれない。
お気付きだろうか。
そう。
ものすごい勢いで淀んだ水を流し続けた……呪いを、解き続けた、この作品で!
唯一!唯一!!!
何一つ解決していないんですよ!!!!
何一つ流れていない。
キマリは「絶交無効」で許したけれど、それ以上でも以下でもない。めぐっちゃんの中にある問題は何一つ解決されていないのだ。
ここで第一話冒頭のあのセリフがリフレインされる。
淀んだ水が溜まっている。
それが一気に流れていくのが好きだった。
決壊し、解放され、走り出す。
淀みの中で蓄えた力が爆発して、全てが動き出す……!
めぐっちゃんという「過去のキマリを象徴する」存在と決別し、4人での南極へのスタートを切ったことに対する強調……にしか見えない。
というか、僕もそう思っていた。
だからこそ、「これ最終的にどう解決するんだ?」と少しモヤモヤしていた。
そう。
ここで僕らは、淀んだ水を内に抱えることになるんです。
「呪われる」と言ってもいい。
もちろん、5話を観ている段階だとそんなことは意識していない。
「自分がまさか淀みを抱えているなんて、想像すらしていない」。
さあ、物語は南極へと動き始める。
そして同時に4人の淀みの「決壊」は次のフェーズへ移行する。
当事者さえ認識のない、本当に深いところにある「淀み」までも洗い流されていくのだ。
あるいは、僕らの中にあるものまでも。
……さて、ここからは毎話毎話怒涛の勢いで洗い流していくというよりも……
物語を丁寧に丁寧に積み重ね一気に洗い流すようになる。9話以降が特に顕著だ。
第6話
さて、6話。良質なコメディ回であり、そして僕は当然のように泣く。
気を使うなって言うならはっきり言う!気にするなって言われて気にしない馬鹿にはなりたくない!!
しらせがパスポートを失くした日向のために、チケットを購入しようとするシーン。
ここで作中でも最大の役割を果たすキーアイテムである百万円、通称「しゃくまんえん」が使われるわけだ。
最終話まで観た皆さんならもうお分かりだろう。
「しゃくまんえん」は、淀みを「精算する」ためのものであり、同時に「淀み」そのものでもあるという、とてつもなくハイコンテクストな存在だ。
ここではまさに「精算」のために使われる。
4人の結束を確認すること。
日向の抱える「淀み」はまだ示唆されているに過ぎないけれど、これで……
「今後どんな展開があっても僕らは受け入れられるようになった」わけだ。
……その「展開」は11話にくるわけだけど。
ちなみにパスポート発見するところ、コメントがめっちゃ面白い。
経営破綻はさすがに笑うしかない。
しらせの株の波が凄すぎる。
第7話
さて、笑った後の第7話。
この辺りからもう涙がもうね。もうね……(しつこいですね)
毎話毎話勢いが最終話だけど、第7話の勢いは相当なものだ。
母が言ってた南極の宝箱をこの手で開けたいと思っています!
皆さん、一緒に……南極に行きましょう!!!!!
先に紹介したブログも含め色々なところで指摘されていることだけど、この辺りから挿入歌の前に、僕らはパブロフの犬と化す。
TVアニメ「 宇宙よりも遠い場所 」オープニングテーマ「 The Girls Are Alright! 」
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聴いただけで泣ける。
なんで7話は泣けるんだろう、と考えるのは野暮なんだけど……
僕らも、もう十分以上にしらせの苦悩や苦労を知っているから、しらせのことを十分理解しているからこそ……
あの隊員が全員一体になった瞬間に涙するんだよね。
少なくとも僕は思っていたよ……
もうしらせのことは十分、理解していると。
皆さんもそうでしょう?理解していると、そう思っていたでしょう?
だからこそ、9話で違和感を覚えたとしても涙にかき消されてしまうんです。
第8話
その前に第8話。
激しい嵐と船酔いに心が折れかけている4人の会話。
しらせ「だったら私達も強くなればいい」
結月「なれるんですか?あんなふうに……」
しらせ「頑張るしかないでしょ、他に選択肢がないんだから」
キマリ「そうじゃないよ……選択肢はずっとあったよ、でも選んだんだよ、ここを」
結月「キマリさん……」
キマリ「選んだんだよ!自分で!」
見返して気付いた。
完全にこの回の会話は見逃していた……
そうだ……
しらせにとって南極は「選択肢がなくて選んだ」場所なんだ。
キマリと違って。
僕らはそのことを(少なくともこの段階では)違和感と受け止めない。
そのしらせの、ポンコツで弱いながらも、圧倒的な一貫した「強さ」を当然のごとく受け止めている。
その構成に僕らは気付かなかったんだ。
8話の話に戻ると、ここで「キマリにとっての淀んだ水が流れ始めたこと」が、全員に強い認識で共有されることになる。
「自分で選んで、ここにいる」のだ。
第9話
9話。
この回は2つ山場があって、まず1つ目の山場が吟隊長の「淀み」を語ることだ。
吟隊長の淀みは、しらせの淀みとも直結している。
吟隊長を「理解しよう」とするしらせと吟隊長の会話。
「分かった。……一つだけ聞かせて。それは本心?本当にそう思ってるのね?」
「わかりません……だから話すのが嫌だったんです!どう思ってるかなんて全然わからない。ただ……ただお母さんは帰ってこない。私の毎日は変わらないのに……帰ってくるのを待っていた毎日とずっと一緒で、何も変わらない。毎日毎日思うんです。まるで帰って来るのを待っているみたいだって……変えるには行くしかないんです。お母さんがいる、宇宙よりも遠い場所に」
はいここ、後でテストに出ます。
泣いてないんです。
こんな悲壮な覚悟言ってるのに、泣いてないんです。
泣きそうになってるのに。
泣いて……ないんです。
絶対に覚えておいてください。
僕は泣いてます。
吟隊長も泣いてます。
さあ、もう一つの山場。
ついに……南極上陸です。
さあ、泣く準備はできたか!
結月に「お母さんが来たところですよ」と言われて。
満を持して、しらせが叫んだ言葉は!!!
ざまあみろ……ざまあみろざまあみろざまあみろ!アンタたちが馬鹿にして鼻で笑っても私は信じた!絶対無理だって裏切られても私は諦めなかった!その結果がこれよ!どう!?私は南極に着いた!!ざまあみろざまあみろざまあみろ、ざまあみろ!!!!!!!!!
日向が「そっちかよ!」とツッコミを入れるのだけれど、そのツッコミの前に視聴者がツッコミを入れてるのが印象深い。
「そっちなのかw」だ。
そう、そっちなのだ。
しらせの顔に母を悼む悲痛さは、もうない。
その爽やかさに、僕らは笑いながら泣いた。
……このシーンの、本当の意味に気付いていなかった。
母に対する思いはここで表出していない、その「意味」。
僕らはそれを「しらせの強さの証明」だと思っていた。
そう、思っていた。
だから「母への思いはそこで出ないの?」っていうような疑問を感じた人がいたとしても……その違和感は洗い流されてしまうだろう。
何故って、しらせは強いんだから。
そうやって、生きてきたんだから。
……あぁ(ため息)
第10話
さて、10話。
ここからは怒涛の勢いで全てが洗い流されていく。
まずは結月のターンだ。
友情を誓約書で固めようとする結月に、他の3人は呆れてしまう。
強い言葉で説得しようとするしらせと対比するように、キマリは涙してしまう。
ごめん……わかんないんだよね……わかんないんだもんね……
ある意味、第3話のリフレインだ。
第3話で得た友情を失うことを恐れた結月は、それを永遠にするために「文字に」しようとする。
それは言い換えればまだ結月が「友達」を理解できず、苦しんでいるということだ。
そう。
まだ水は淀んで、溜まっているのだ。
ここでめぐっちゃんとのやり取りが地味に続いている事実が明らかになるわけだけど
お互い、……少なくともキマリにとって、めぐっちゃんが言葉を使わずにも理解できる相手だということがここで語られる。
このイベントを経て、「ね」で十分だってことを理解した結月の「淀み」は、やっと完全に流されたと言えるのだろう。
……結月の淀みが洗い流されると同時に……
今思い返すとめぐっちゃんの「そうか」が面白すぎる。
ずっと黙ってそっけない態度で、一人でずっと行動してたんだなって……
うん、フライング。それはあとで語ろう。
ってもう7500字書いてるんだけど……
第11話
さあ、ここまで明確に語られなかった日向の淀みに踏み込まれる回がやっと来た。
まさか……いや、正直この回がこの作品のクライマックスだと思っていた。
僕にとって最高の一話だった。
日向は、過去を「精算」しきれていないことを自覚している。
なんで私が南極に来たと思う?何もないからだ!何のしがらみも無い人と、何もないところに行きたかったんだよ!
逆説的にではあるんだけど、この発言は裏返すと「過去のしがらみから逃れられていない」ことを意味している。
それに気付いてか気付かずか、しらせだけは3人の中で頑なに納得しないのだ。
納得しないしらせに、日向は言う。
ありがとう。……ごめんな。 私、多分まだ怖いんだよ。怖いんだよ……
日向は自分の努力で、覚悟で、過去を精算しようとしている。
自分自身を、自分の力で変えようとしている。
過去を、受け入れようとしている。
連れてきてくれてありがとう。
日向の一言は、過去を受け入れるという覚悟だったのだ。
日向にとって、それだけで……十分だったのだ。
なのに。
しらせは日向の代わりに……否、違う。
しらせは、しらせの意思を突き通したのだ。
さあ、作中屈指の名シーンだ。一体作中屈指の名シーン何度あるねんこのアニメ!!!!
私は日向と違って性格悪いからはっきり言う!あなたたちはそのままもやもやした気持ちを引きずって生きていきなよ!人を傷付けて苦しめたんだよ。そのくらい抱えて生きていきなよ。それが人を傷付けた代償だよ!私の友達を傷付けた代償だよ!
今更何よ……ざけんなよ!
日向が傷ついたのは、日向が友達だと思っていた存在のその言葉が、「同調圧力に屈する程度の」そんな弱い意思で発されていたものだと知ったからだ。
圧倒的な弱さ。容易く自分を売り渡すような、その程度の関係性。
メールの「長いだけの」言葉で許されようとする、その在り方。
そんな過去を全て消し去るほどの、しらせの圧倒的な言葉。
日向にとってどれだけの救いだったのだろう。
この作品、みんな凄く……「よく泣く」。まるで僕のようだ
泣き虫なわけじゃない。
これもまた「淀んだ水」のメタファーなのだ。
やっと決壊して、勢いよく流れ出した。
……泣くことが、できた。
そういった涙なのだ。
……ふぅ。
……はーーーっ。
正直、見返すと冷静な言葉が紡げるか心配になるけど……
僕はそれでも語るしかないんだ。……さあ、語ろうか。
第12話
僕は12話の評判のみ事前に聞いていた。
とにかくヤバイ、と。
もうとにかくヤバイ、と。
だから、ひねくれた見方をしていた。
何が来ても泣いてたまるかと思っていた。
だから僕の中でハードルを物凄く上げていた。
どれだけ高くから来ても、僕が設定したハードルを超えさせてはやらない。
そう覚悟していた。
……成層圏から超えられた。
なにか途方も無いものを見てしまったようだった。
その衝撃は、観た全員と共有できるものだと思う。
私ね、南極に来たら泣くんじゃないかってずっと思ってた。
……しらせにとって「ざまあみろ」と叫んだその時点で時計が止まってしまっているのだ。
……否。
おそらく……母親が行方不明になった日から、何度も語られているように……しらせの時は止まっているのだ。
明らかな一種の「燃え尽き症候群」だ。
と、少なくともこの時点ではそう見える。
目的を見失っているのだ。
……1話、2話の時点では誰が想像できただろうか。
しらせが内陸への遠征を躊躇うなどと。
しらせが「この先へ行っても無意味かもしれない」と、変化を恐れることなど……誰が想像できただろうか。
この記事を読み返して頂きたい。
第一話で僕らが抱いた印象は……完全にひっくり返っている。
リーダーであるしらせと、フォロワーであるキマリ。
そんな構造はもはやどこにも存在しない。
しらせという一人の存在の苦悩がそこにあるだけだ。
「しゃくまんえん」を並べ、過去を数えるしらせ。
淀んだ水を流すためにかき集めたそれは、同時に……
淀んだ水、そのものなのかもしれない。
……この先、内陸でしらせは……僕らは、何を見つけるんだ?
何が、この先にあるんだ?
分からない。
だからこそ、立ち返る。
お母さんが待ってる。
こうして最後の旅が始まる。
全てを洗い流す、全てを精算する……そのための、旅が。
……とは言っても、何を清算するんだ?それさえも、実はまだ(本当の意味では)誰もわかっていない。
ここまで4人の強さに寄り添いながら、僕らは旅を第三者として眺めてきた。
その中でしらせのことやしらせの強さはよくわかってきたつもりだっただろう。
「しゃくまんえん」が象徴する、しらせの日々も……重さも。分かっていた。つもりだった。
この4人で旅を続けたこと。
しらせの独白。
私は、 みんなと一緒だったからここまで来れました。
……多分、そこでもうしらせは過去を「精算」する覚悟はできている。
……でも。
最後の最後。しらせが他のみんなの「淀み」を決壊させたように。最後にしらせの「淀み」を決壊させたきっかけを作ったのは……他の3人だった。
しらせ「お母さんのものなんて見つかるわけないでしょ、もう三年も前なんだし……」
キマリ「わからないよ!」
日向「そうだぞ!逆に言えば三年前から誰も来てないってことなんだから!」
しらせ「いいよ!見つかるわけないよ!」
キマリ「諦めちゃダメだよ!なんでもいい!一個でもいいから!」
しらせ「いいよ……」
日向「よくない!」
しらせ「見つからないよ……」
結月「なんで言い切れるんです!?」
しらせ「いいよ……ここに来れただけで十分……ちゃんと目的は達成したから……お母さんのいるところに来れたから……ありがとう……だからもう……」
キマリ「よくない!!ここまで来たんだよ!ここまで来たんだもん!一個でいい!しらせちゃんのお母さんが確かにここにいたっていう何かを……!」
そうだ。しらせに導かれたみんなが……キマリが……今はしらせを導いている。
さあ。
もうこの時点であと本編は4分も残っていない。
だが、もう皆さんは……知っている、だろう。
この後、何が起こったか。
もう、このシーンについて深く語る気はない。
僕らも……多分、理解していなかったのだ。
あるいは深く考えていなかった。
「母親を失ったこと」。
その重み、実感のなさ。
……その日々。止まっていた時間。
届かなかったメール。
しらせが、積み重ねてきた時間。
淀んだ水が溜まっている。
それが一気に流れていくのが好きだった。
決壊し、解放され、走り出す。
淀みの中で蓄えた力が爆発して、全てが動き出す……!
キマリを前進させたそれは、しらせにとって……
母に向かって叫ぶ慟哭として……
涙として、やっと、ここに流されたのだ。
『宇宙よりも遠い場所』。
そのタイトルがダブルミーニングであることを疑う余地はもうない。
……さあ、「残った淀み」を徹底して洗い流してくれる最終話に向かおう。
最終話
最終話とは思えないくらい、いつものように……話が進む最終話。
まるで『宇宙よりも遠い場所』という作品が無限に続くかのような錯覚に陥る。
だけどそれは、錯覚なのだ。
旅に終わりがあるように、良い作品にも……いつか終わりがくる。
徹底的に「自分の枠を壊す」という「旅の本質」を味わってきたキマリが、旅を愛する人ならば誰もが思う感情に苛まれる。
まるで、ずっと良い作品を見続けてきた僕らがずっとこの作品に続いてほしいと願うかのように。
「帰りたくない」と。
だが、旅は終わるからこそ旅なのだ。
ずっと母の死を実感できなかったしらせが母の死を受け入れて先に進むように……
一度、どこかで終わる必要があるのだ。
爽やかに、後腐れなく。
それは……アニメも同じだ。
今後も4人の旅は続くのだ。
だけど、ここで一度おしまい。もう「流れた」のだから。
呪いは解け、過去の精算は済んだのだから。
……だから、もう「しゃくまんえん」は、しらせの手元に置いておく必要はないのだ。
……さて。
最後に。
……たったひとつだけ。
本当に、たったひとつだけ……
精算できていないものが、残っていましたよね?
それこそまさに、「宇宙よりも遠い場所」の、3つ目の意味。
ああ、もう最高だ。
語れねえよこんなの!!!!!!(1万字語った結論)
あるいは僕らも
もしかすると、「呪い」をかけられたのは……
淀んだ水が溜まっているのは、「僕ら」なのかもしれない。
これだけのものを見せられて、変わらないわけにはいかないだろう!
……と。いい歳して、僕はそんなことを思っている。
TVアニメ「 宇宙よりも遠い場所 」エンディングテーマ「 ここから、ここから 」
- アーティスト: 玉木マリ(CV:水瀬いのり),小淵沢報瀬(CV:花澤香菜),三宅日向(CV:井口裕香),白石結月(CV:早見沙織),水瀬いのり,花澤香菜,井口裕香,早見沙織
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ここから始めよう
僕は旅に出よう
我ながら単純だなぁと思う。
でも旅って、そういうものなのだ。
徹頭徹尾、『宇宙よりも遠い場所』は旅アニメだった。
めぐっちゃんが一人で置いていかれたときに、僕らもある意味画面の前で置いていかれたのだ。
アニメはアニメ、現実は現実。
それは解っている。だけど……
たまには……いいじゃないか。
ここから始めよう。
僕は旅に出よう。
『宇宙よりも遠い場所』が僕らに残してくれたもの。
次に淀みを流すのは……多分、まだ旅を初めていない僕らなんだ。
そんな日向みたいな名言を言ったっていいじゃないか。
この名作の前には、きっと何を言ったって許される。
……ああ、長かった。
読んでくれて本当にありがとうございました……
ではまた、次の記事でお会いしましょう!
シェアして頂けると、とても嬉しいです。