筆者はそれなりに仕事ができる。
と、少なくとも自分では思っている。
仕事には確かにテストのような正解はない。
けれどコミュニケーションにおいても何においても、課題を噛み砕いて、適宜翻訳し、都度都度最適解は何かをシステマティックに考えていればそれなりに重宝されるようになる。
賛否両論あるだろうが、まあ筆者はそんなふうに考えているのだなと軽く考えて欲しい。
今日の本題は仕事の話ではない。
マッチングアプリの話
およそ一ヶ月前、僕は地元関西に帰ってきた。
渋谷近郊で今の家に住むなら下手すると家賃20万円を超えるぞ、という大豪邸(誇張含む)でリモートワークをしている。
とっても快適である。
快適で快適で快適で……
孤独である。
恋愛でトラウマを抱えている僕は女性不信気味ではあるのだが、とにかく動かないと話にならないのでマッチングアプリを始めてみた。
アイコンはプロに数千円で写真を撮ってもらった。
届いた写真はことごとく邪悪な姿をしていた。
教科書に「目が笑っていない笑顔」の実例として載せて頂きたいような写真ばかりだった。
その中でも比較的邪悪度が少ない写真をメイン画像に選んだ。
思いの外マッチングするんだな、という印象だった。
だが、その先が続かない。
「よろしくお願いいたします!」
「映画お好きなんですね!」
そんなテンプレート的なことしか言えない。
自分でも面白くねーな、と思って書いている。
返事はないか、あっても続かない。
……つまらない。
とても、つまらない。
女性は概ね男性よりたくさんマッチングしているようだが、他の男性が全員筆者より100倍面白いトークをゼロから構築しているというわけでもないだろう。
こんなつまらないメッセージが山程来るというのは心底しんどかろう。
おそらくマッチングアプリにはマッチングアプリの文脈なり攻略法があって、仕事と同じ「アルゴリズム」に従ってファーストメッセージを送ってみると良いのかもしれない。
けれど、例えばそれで盛り上がったとしてもそれはおそらく「僕」の求めるものからかけ離れてしまうだろう。
仕事なら「僕」の要求なんざどうでもいい。「僕」の要求なんざ、仕事においてはオマケに過ぎない。先述した通り「都度都度最適解は何かをシステマティックに考え」るだけだ。
でもマッチングアプリはどうしてもそんな風に動けない。
まあ恋愛シミュレーションみたいなもん、と思ってはいるけれど、やっぱりどうしても「都度都度最適解は何かをシステマティックに考え」るようなことはできない。
恋愛周りでそういった動きができるほど僕は達観していない。
……まあ、いずれは「仕事も恋愛も何もかも同じさ」とスレるようになるかもしれないが……
それはまた別の話。
ナンパ男の話
話が変わるが、上京したての頃ちょっとアレなバーに行ったことがある。
もう10年近く前の話だ。
どんなバーなのかは察して欲しい。
そこで僕が得た「収穫」に関してはノーコメント。
未だに覚えているのが、そこに面白い男がいたことだ。
「姉さん!!!こっちの!!!ソファ!!!!!柔らかいですよ!!!!」
前代未聞、ソファ柔らかナンパである。
「彼」はひたすらソファの柔らかさをハイテンションでアピールしていた。
僕は彼を限界を超えてしまった男の一例だと考えていたのだけれど、今は思う。
スカして何もできないくらいなら、それくらいのヤケクソ営業ができる人間の方が強いのではないか、と。
30代になって急に金髪になる男がいる。
それも同じ文脈だ。
スカして、「正しい」人間であったとしても何も変わらない。
少しずつ「逸脱」しなければ。
金髪に染めることも、ソファの柔らかさをアピールしながらナンパすることも、決して「違法」ではない。
逸脱としては可愛らしいほうだろう。
話を戻して
マッチングアプリはメインが決まるまで色々試してみようと思って複数登録してみたのだが、その中にオタク用マッチングアプリである「オタ恋」も含まれていた。
頭のおかしいAI広告で有名なマッチングアプリだ。
相手にオタク性はあまり強く求めていないのだが、筆者がドチャクソキモオタクなので相手もオタクであるに越したことはない。
ということで試してみたらマッチングしたのだが、どうもプロフィールに
「アニメ、漫画、ゲームの話ばかりで嫌になる」
と記載されていた。
なんでこの人はこのアプリ使ってんだ……?
いやまぁ、オタクって言ってもアニメやらゲームだけに限らないし、他のジャンルの話がしたいって意図なら……
あれ?この人プロフィールにアニメとゲームと漫画の話書いてるぞ??
僕の中に急に「逸脱」したいという欲求が頭を出した。
「このアプリでアニメと漫画取り上げられたらコイキングですよ!!」
「結局何の話がしたいんですか!?って言われても困りますよね!マッチングアプリはこれだから嫌っすよね!!僕はバイクと車と日本酒の話がしたいですよ」
そういったようなことを言ったら
「御託が多いな」
と言われてしまった。
なかなか聞かない語彙である。
「御託はいいからかかってこい!!!」
くらいでしか聞いたことがない。
「おっ、オタクっぽいですね!」
と言ったらブロックされた。
まあそりゃそうやろな、と思いつつ「なんやねん、そこまでプロフィールに書くくらいなら面白い話してくれや」と思う自分もいる。
まあ、流石にちょっと逸脱しすぎたな。
いくらなんでもそれくらいの自覚はある。
「うまく」逸脱しなければならない。
そう。
うまく、うまく……
とある老婆の話
今朝の話。
ここまでに書いたようなことを考えながら、近所のショッピングモールにでも行こうと思って愛車が眠る駐車場に向かっていた。
すると。
駐車場の近くで、90近い老婆が、一心不乱に家の横に植えられた木の若葉をむしっていた。
おそらくその家は老婆の家ではない。
羅生門で老婆に相対した下人の気持ちはこうだったのだろう。
無視して行こうかと思ったが普通に木が可哀想だったので、非難の口調で僕は言った。
「あなた、何してんすか!」
2度ほど言ったところで老婆はにっこり笑ってこう言った。
道に出てるから邪魔でしょ?と。
確かにごくごく僅かに歩道側に出ていると言えなくもない。
だが仮に出ていたとしても自力で切っちゃダメだし、そもそも要件を満たした上で自力で切っていいとしてもそれは「自分の土地を侵害している場合」だ。*1
要するに、老婆の主張には何の正当性も無い。
……というようなことを、思ったのだけれど。
僕はもう放置して、そのままショッピングモールに向かった。
僕は下人ではないので老婆をとっちめる気も、服を奪う気もなかったのだ。
やっぱ警察には連絡しといたほうが良かったかなぁと後で思ったけれど。
何もかもが面倒になってしまった。
ショッピングモールで焼肉丼を食べながら、考える。
逸脱の果てに、居酒屋でセクハラをする。
逸脱の果てに、公共の場で大声で他者を侮辱する。
逸脱の果てに、大声で自慢話をする。
逸脱の果てに、他人の木を手でむしるようになる。
金髪にする、などは可愛らしいものだと先に書いた。
なら、可愛らしい逸脱と可愛らしくない逸脱の差異はなんだ?
合法か違法か、だろうか?
それはわかりやすいが、合法だったら全て可愛らしいかというと全然そんなことはない。
上品か下品か。
なるほど、確かに金髪にしたりソファの柔らかさでナンパするのはまだ「上品」だ。
けれどそれも主観的判断に過ぎない。
老婆のことを考える。
老婆にはもう、SNSで炎上が生じるリスクも注意してくれる他者もいない。
警察を呼ばれることさえ、おそらく怖くはないのだろう。
もちろん、そうなるにはそうなるなりの同情できるような経緯があったのかもしれない。
だが、あくまでも主観としてだが……
受け入れられる領域の行為ではない。
それは僕にとって。
逸脱の果て。
人が、壊れるとき。
恐ろしいのが、それでも老婆が「邪魔だから」という「大義名分」を失っていなかったことだ。そこまで行っても「言い訳」はあるのか。
僕もいつか、そうなってしまうのだろうか。
「人目を気にするな」。
そういったことがよく自己啓発本に書かれる。
でも行き過ぎたその果ては「木をむしる老婆」なんだよな。
まあ、「人目を気にしすぎる人」はいくら「逸脱」してもなかなかそこまでは行けないから、多分そんな気にしなくてよいのだろうけど。
僕がぶっ壊れたとき、誰かが僕を矯正してくれるだろうか?
……。
はー。
あー、彼女欲しい。
けれど、なんだか少し疲れてしまったな。
寂しいな。
本当に寂しい。
そもそも。
僕は壊れていない前提だったけど、その前提がもしかしたら間違っているのかもしれない。僕はもうとっくに、壊れているかもしれないのだ。
壊れていない人間なんて、いないのかもしれない。
……ってのも極端かなぁ。
少し休んでからジムに行くか。
筋肉は確かに、裏切らない。
そのあとは酒飲んでエロ漫画でも読んで、さっさと寝てしまおう。
それが一番だ。
独身なんか、それで良いのだ、多分。
*1:民法233条